医療機器営業はきつい?

「医療機器営業」と検索すると、必ずと言っていいほど「きつい」「やめとけ」といった言葉が並びます。実際、私も入社前には「ノルマはあるのか?」「達成できなかったら即解雇なのか?」と不安を抱いていました。

あれから10年以上、営業現場にどっぷり浸かってきた私が出す結論は――「人による」というのが実際のところです。

そもそも、数ある職業の中から100点満点の仕事に巡り合う可能性は極めて低いものです。多少きつくても、自分なりに合格点に達していれば、なんとなく続けられる。そんな感覚が現実ではないでしょうか。評価の基準は人それぞれ異なるため、どうしてもこのような答えになります。

医療営業に合う・合わないは事前に分かる?

これは比較的、事前に判断できるものです。特に医療業界は他業界と比べて特殊性が高く、最近では入社面接も人事部だけで完結することは少なくなり、現場のマネージャーが面接を担当するケースが増えてきています。

それだけ、入社前の想像とのギャップに悩む人が多いということなのでしょう。

医療営業の裏側とは?

私は10年以上、医療営業の裏側を経験し、酸いも甘いも味わってきました。決して表には出ない体験を、ここでお話ししたいと思います。

仕事にはメリットもデメリットもあります。ここでは、営業職に現在就いている方、または営業職を目指している方を前提に、忖度なくすべてをお伝えいたします。

医療営業のデメリット

1. 医師営業の厳しさ

  • 拘束時間が長い 医師は非常に忙しく、朝7時からカンファレンスを行い、その後は外来やオペ室、病棟へと移動します。アポイントの打診メールをしてもなかなか返事が来ず、医局で長時間待つこともあります。コロナ禍で多少改善されたとはいえ、医師を待つ文化は根強く残っています。時間効率の悪さから「タイパが悪い職種」として若手が離れていく傾向もあります。
  • 商材の専門性が高い 医師の話す内容を理解するためには、一定の医学知識が必要です。入社後に2〜3か月の研修が行われますが、そこで医学知識の詰め込みに耐えられず、離脱する人も一定数存在します。

2. 特殊な医療環境

  • 夜中の緊急対応 循環器・脳疾患・外傷系のメーカーでは、土日でも呼び出されることがあります。私自身も曜日や時間を問わず、何度も呼び出された経験があります。ある超循環器病院の担当者は「どうせ呼ばれるから」と冬場に院内SPD室へ寝袋を持ち込んでいました。商材によっては年中仕事モードとなり、家庭との両立が難しくなります。
  • 体力勝負 手術によっては長時間の立ち合いが必要です。製品が無事使用され、手術が順調であれば「帰ります」と言えますが、そうでない場合は医師の「話しかけるな」オーラにより帰れないこともあります。ロボット手術が増え、医師が椅子に座っている中、営業担当はずっと立ちっぱなしという病院もあります。
  • 放射線下での業務 男性はあまり気にしませんが、女性の中には放射線を嫌う方もいらっしゃいます。防護服は着用しますが、病院によっては劣化したものもあり、実際に防げているのか疑問が残るケースもあります。

3. 営業のストレス

  • 売り先が少ない メーカーの数は多いのに、病院という買い手は限られています。過剰供給の世界であり、顧客の争奪戦が日常的に繰り広げられています。大病院では、外来に患者以上にメーカーが並ぶこともあります。
  • 製品の差別化が難しい 治療に関するエビデンスは豊富ですが、製品間の優劣を示すエビデンスはほとんどありません。日本では製品の差別化がコンプライアンス上禁止されているため、医師の所感に依存する部分が大きくなります。その結果、華美な営業が生まれ、自尊心を失う事例も少なくありません。
  • コンプライアンスの厳格化 以前は普通に行っていた営業活動が、現在ではほぼ禁止されています。それでも奨学寄附金や学会・セミナーへの協賛依頼は絶えません。民間病院では忘年会や接待の要請もあり、昭和の文化が残っています。断ると売上に影響する可能性があるため、違反ギリギリのラインを歩くことになります。内部告発も増えており、社内でも気を遣う必要があります。

医療営業のメリット

1. 営業スキルが身につく

医療営業の最大の特徴は「プロにモノを売る」ことです。相手は臨床のプロであり、素人の話を聞かなくても自分で調べて解決できます。そんな相手からニーズを引き出し、製品提案に持ち込むため、営業スキルは自然と磨かれます。

2. 上司からのストレスが少ない

病院への直行直帰が基本であり、自分で計画・実行・検証を行います。上司からの干渉が少なく、外資系では1週間顔を見ないことも珍しくありません。

3. 給与水準が高い

医療機器は高額な商材が多く、研究費も莫大です。そのため利益率が高く、給与水準も他業界と比べて高めに設定されています。

4. 転職しやすい

同業他社への転職は比較的容易です。医学知識が身につき、他者との差別化が進むため、企業側も教育コストを抑えられる経験者を好む傾向があります。

5. 医療の内部事情に詳しくなる

身内が手術を受ける際、どの病院が良いかという情報は社内で飛び交っており、精度も高いです。手術の成績は執刀医によって変わるため、内部事情を知る職種としての特権とも言えます。

6. 社会的貢献度が高い

医療費に対する批判もありますが、健康への貢献という側面も確かに存在します。人は誰しも病気や怪我を経験します。その時に医療の一端を担っているという自負は、営業担当者にも確かにあります。

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