付加価値創造

付加価値創造と営業の本質

〜医療機器営業の現場から〜

マーケティング戦略

外資系企業においては、国内で最初から製品を開発することは基本的にございません。本国にある既製品や新製品を、いかに日本市場で広げていくかが焦点となります。

本社のマーケティング部門が中心となり、全国のKOL(キーオピニオンリーダー)からのヒアリングを通じて臨床ニーズを探求いたします。得られたヒントをもとにシナリオが練られ、そこから説明資料や販促品が作成され、営業部門に展開されるというのが大まかな流れです。

この段階では、完成度よりもスピードが優先される傾向にあります。

現状の問題点

ここで問題となるのは、練られるシナリオがあくまでも仮説であり、それが的中する保証がないという点です。初期に展開される販促品は、VOC(Voice of Customer)を通過しているとはいえ、概ねプロダクトアウト型の資料が中心です。

本国の指示や薬事法の観点から、どうしても堅い資料でなければならない事情もあるのでしょう。とりあえず全国展開し、問題点があれば半年後を目処に改訂版が出されるという流れです。

このような体制は理解できますが、現場の実情と乖離しているケースも少なくありません。さらに、仮説が外れた場合、その責任の多くは営業部門が負うことになります。

したがって、私見ではございますが、営業部門もマーケティングに参加すべきであると考えております。現場に出す前に、常にマーケットインの視点を持つ人間が内容を確認することが正しいと信じております。

価値提供の原点

商売の原点に立ち返ってみましょう。商売とは、顧客に付加価値を提供することにあります。そして、顧客はその価値に対する対価としてお金を支払います。これが商売の基本的な形です。

したがって、会社の意向からスタートするのではなく、「顧客が感じる価値」からプランニングを組み立てることが原則であり、これを無視しては商売は成り立ちません。

医療機器が提供する付加価値

医療機器が提供する価値は、主に以下の3点に集約されます。

  1. 臨床成績の向上につながるもの  現在以上の臨床成績が期待でき、明日からの治療に役立つもの。
  2. ドクターフレンドリーなもの  操作が簡単で使いやすいもの。
  3. 経済性  品質を維持しつつ、価格が安価であるもの。

この3つのうち、いずれかを起点に考えるのが定石です。以下に、営業マーケティングの手順の一例を述べます。

営業マーケティングの手順

ステップ1:製品の背景を理解する

  • その製品が、どのような患者メリット(価値)を目指して開発されたのか。
  • どのようなニーズがあり、それに対してどのような改良を加えて製品化されたのか。
  • 本国での先行販売状況はどうか。
  • どの分野で売れているのか。
  • 他社と比較してシェアはどうか。

これらの情報は、営業として必ず把握しておくべきです。実際には、これらに答えられる営業担当者は思った以上に少ないのが現状です。

質問しても「企業秘密だから」と門前払いされることもありますが、ここは粘り強く聞き出す姿勢が重要です。

ステップ2:現場の声を拾う

出てきた資料を医師に見せながら、 「これを使えと言われましたが、そんなニーズ本当にありますか?」 と率直に尋ねます。

現場サイドの人間に直接話を聞けるのは、営業の特権です。腹を割って話すことが大切です。

情報収集の手段としては、以下のような方法がございます。

  • ドクターにヒアリングアポを取る
  • 社内講演やセミナーからニーズを抽出する
  • 学会で情報を得る(学会は問題解決の宝庫です)
  • 医学雑誌から拾う(紀伊國屋書店など)
  • 文献から調べる

ステップ3:シナリオを構築する

得られたヒントをもとに、以下の順でシナリオを構築します。

  • WHY(なぜ):こういう問題があります
  • HOW(どうやって):だから、それを解決するにはこういった機能が必要です
  • WHAT(何を):そこで、こういう製品を作りました

価値は全員で創り上げるもの

営業部門の声を反映させながら、「売れる資料」を作り上げていくことが重要です。価値醸成の文化を備えた組織ほど、顧客から選ばれ、成長していくものと考えます。

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コラム:営業のマインド

セールスは問題解決業である

営業とは、臨床上の問題点に対し、自社製品を通じた解決策を提案する「問題解決業」でございます。

現場では、相手の立場や自分の思い込みを一度取り払い、「問題解決ができ、良い臨床結果が得られるか」だけを考えることが求められます。

提案が相手に受け入れられたとき、マインドは「売れる」という自信に変わります。これは非常に重要な要素です。

マインドセットの重要性

営業は孤独な世界であり、自分自身が一番の話し相手です。売れる確信を持つことで、売るための行動を積極的にこなすようになり、結果として成果が実現します。

営業において最初の顧客は「自分自身」です。製品に自信を持つことが、売れる営業としての第一歩です。多くの場合、ここで勝負が決まります。

後述する付加価値提案にも通じますが、「これはいい!」と心から思える人間は、必ず上位に食い込んでまいります。これは飛行機のエンジン部分に例えられ、ここが不調では離陸できません。マインドセットは必ず整えておくべきです。

医師との価値観のズレは危険

医師との価値観がずれると、セールスの成約率は確実に低下します。すると現場には「本当に売れるのか?」というネガティブな不安が広がり、それが医師にも伝播してしまいます。

結果として、さらに売れない状況に陥り、優秀な社員から離職していくという悪循環が生まれます。

価値の低い商材を扱う会社は、「返報性の法則」しか武器がなくなり、やがて淘汰されていくことでしょう。

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